腎性骨異栄養症(ROD)とは
骨折しても一ヶ月程で治癒するように、
骨は無機質な固まりではなく、活発に代謝を行っています。
骨折しても一ヶ月程で治癒するように、
骨は無機質な固まりではなく、活発に代謝を行っています。
骨は体を支持するだけでなく、骨髄は血液をつくる臓器であります。
カルシウム、リン、マグネシウム等、ミネラルの貯蔵・調整器官でもあります。
骨の代謝は吸収相、形成相を繰り返すことで行われています。
・吸収相 破骨細胞 (☆) が古い骨細胞を溶かす。(骨吸収)
・形成相 骨芽細胞 (▽) が新しく骨を形成する。(骨形成)
骨吸収と骨形成・骨のリモデリング
骨吸収と骨形成を繰り返す、骨の代謝を骨回転といい、
骨吸収と骨形成のバランスが保たれていれば
骨は常に新鮮で強さとしなやかさが維持されますが、
骨は常に新鮮で強さとしなやかさが維持されますが、
このバランスが破綻し、
骨吸収が亢進したスカスカの状態を高回転骨といい、
骨吸収が亢進したスカスカの状態を高回転骨といい、
骨回転が低下した新鮮ではない状態を低回転骨といいます。
透析患者さんにおこる骨障害を総称し腎性骨異栄養症といいます。
骨吸収、つまり骨を溶かすのは副甲状腺ホルモン、PTHです。
副甲状腺
透析患者さんにおこる骨障害を総称し腎性骨異栄養症といいます。
骨吸収、つまり骨を溶かすのは副甲状腺ホルモン、PTHです。
副甲状腺
副甲状腺は甲状腺の裏側に位置する米粒大の臓器で、一般に4つあります。
上皮小体とも呼ばれ、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌しています。
PTHは破骨細胞に作用し骨を溶かして(骨吸収)
血中にカルシウムを導き、血中カルシウム濃度を上昇させる作用があります。
副甲状腺表面には
「カルシウム受容体」、「ビタミンD受容体」、「リン受容体」があり、
血液中のそれぞれの濃度を監視しています。
「カルシウム受容体」、「ビタミンD受容体」、「リン受容体」があり、
血液中のそれぞれの濃度を監視しています。
腎不全による低カルシウム、ビタミンD不足、リンの蓄積、それぞれに対し、
PTHは代償するように働き、副甲状腺の機能は亢進します。
カルシウムを食べ物から体内に吸収するのは
腎臓から分泌される活性型ビタミンDのはたらきです。
腎臓から分泌される活性型ビタミンDのはたらきです。
そのため腎不全になるとビタミンD不足となり、低カルシウム血症がおこります。
びまん性過形成から結節性過形成に進行するに伴い、
Ca受容体作動薬について
カルシウムのふりをして副甲状腺のカルシウム受容体に結合し、
カルシウムが十分に足りていると勘違いさせる作用機序です。
D剤とカルシミメティクスを併用することで相乗効果を発揮し、
互いの副作用を打ち消しあい、副甲状腺を退縮させる可能性があるといわれています。
カルシウムとリンのコントロールができていても
当初、Intact(損なわれていないの意) PTHは
1-84 PTH だけを測定していると思われていましたが
ビタミンDの不足も低カルシウム血症も、骨を溶かすPTHの分泌を促します。
透析療法の内科的治療、カルシウム製剤、ビタミンD製剤を用いることで
PTHの分泌を抑制することができます。
しかしこれらの薬は高カルシウム血症となる副作用があります。
またビタミンD製剤は腸管からカルシウムの吸収を促進しますが
リンの吸収も促進するため高リン血症となる副作用もあります。
リンの吸収も促進するため高リン血症となる副作用もあります。
血清カルシウム濃度は8.4~10.0mg/dl の範囲に、
リン濃度は3.5~6.0mg/dlの範囲に、
リン濃度は3.5~6.0mg/dlの範囲に、
この範囲内でも低めに維持しなければならないのです。
血清カルシウム濃度が高くなってしまうのならばPTHが高くても
カルシウム製剤、ビタミンD製剤は中止、減量しなければなりません。
高カルシウム血症は動脈硬化、血管や全身の石灰化の原因となるからです。
PTHのコントロールよりもカルシウム、
カルシウムのコントロールよりもリンのコントロールが優先されます。
リン吸着剤について
リン吸着剤について
炭酸カルシウムは最もよく使われるリン吸着薬ですが
カルシウム負荷が血管石灰化の原因になることから
一日当たり3gを限度とするよう勧告されています。
リンゴ酸カルシウムはカルシウム上昇作用が炭酸カルシウムより低く、
リン吸着効果が高いので個人的に購入して使用する患者さんもいます。
リン吸着効果が高いので個人的に購入して使用する患者さんもいます。
(保険適用ではありません)
カルシウムを含まないリン吸着薬には成分名:塩酸セベラマー
(商品名:レナジェル、フォスブロック)があります。
(商品名:レナジェル、フォスブロック)があります。
塩酸セベラマーは服薬量が多く1錠あたり20ccの水分を吸収することから
便秘や膨満感などの副作用があり、服薬コンプライアンスの低い薬です。
腸に穴が開くなどといった重篤な副作用も報告されています。
ビキサロマー(キックリン)は塩酸セベラマー同様ポリマー系ですが
より膨潤の程度が低く消化器症状がセベラマー50%に比べ、
服用者の4割までに改善されています。セベラマにあるアシドーシス作用がなく、
炭酸ランタンにある蓄積する金属が使われていないのですが
より膨潤の程度が低く消化器症状がセベラマー50%に比べ、
服用者の4割までに改善されています。セベラマにあるアシドーシス作用がなく、
炭酸ランタンにある蓄積する金属が使われていないのですが
販売されているリン吸着剤の中ではもっとも効果が低いようです。
炭酸ランタン(ホスレノール)は
噛み砕くチュアブルタイプで吐き気などの副作用はあるものの
食直後に飲んだり、服用していくとともに軽くなるといわれています。
顆粒、OD剤も発売されています。
もっともリン吸着力の強い薬ですが金属ランタンを使用しているため
レントゲンに白く写ります。ランタンは本来生体に存在しない元素です。
長期使用による骨への蓄積による影響が心配されています。
クエン酸第二鉄水和物(リオナ)は鉄とクエン酸を含んでいます。
鉄は透析患者さんは不足しますし、
クエン酸はアシドーシスの補正を行うことから一石三鳥な効果をもっています。
クエン酸はアシドーシスの補正を行うことから一石三鳥な効果をもっています。
リン吸着能はセベラマ同等、この薬の最大の欠点はうんこが黒くなることです。
常にウンコが黒ければ、消化管出血に気付き難くなってしまいます。
スクロオキシ水酸化鉄(ピートル)はチュアブルタイプ、
リオナ同様、第二鉄とスクロース、でんぷんで合成された薬です。
リオナ同様、第二鉄とスクロース、でんぷんで合成された薬です。
リオナが最大容量一日24錠、ピートルは6錠で済むので食事一回2錠で済むのは利点です。
チュアブルタイプですがサビの味の「らくがん」とのことで評判が悪いようです。
鉄の上昇作用はリオナよりも低く、セベラマよりも吸着力は強いのですが
鉄を使用しているのでリオナ同様、便が黒くなります。
主な副作用は下痢(23%)でリオナ(10%)より高いようです。顆粒もあります。
鉄を使用しているのでリオナ同様、便が黒くなります。
主な副作用は下痢(23%)でリオナ(10%)より高いようです。顆粒もあります。
カルシウムを含まないリン吸着剤はまだまだ改良が続きそうです。
リン(P)の蓄積は副甲状腺の細胞を増殖させ(過形成)、PTHの分泌を促進させます。
透析患者の副甲状腺過形成はびまん性過形成から結節性過形成に進行します。
結節性過形成ではビタミンDによるPTH抑制治療により抵抗性をもち、
副甲状腺の増殖性は強くなります。
副甲状腺の増殖性は強くなります。
びまん性過形成から結節性過形成に進行するに伴い、
副甲状腺表面のカルシウム受容体、VD受容体は減少していきます。
そのため副甲状腺機能にブレーキをかける
カルシウム、VDを副甲状腺は感知できなくなり、
カルシウム、VDを副甲状腺は感知できなくなり、
骨を溶かすPTHの分泌増加に歯止めがかからない状態となるのです。
低カルシウム血症、活性型ビタミンD不足、高リン血症、
これらが副甲状腺の「量的変化、質的変化」を起こし、
ますます副甲状腺機能を亢進させる。
ますます副甲状腺機能を亢進させる。
これが副甲状腺機能亢進症の内科的治療抵抗性の要因です。
内科的治療の限界が Intact PTH 500pg/ml 以上といわれ、インタクト
これに高カルシウム血症、高リン血症が伴う場合、ホール
外科的治療(副甲状腺インターベンション)の適応になります。
副甲状腺インターベンションには副甲状腺摘出術(PTx)、
副甲状腺にエタノールを注入する PEIT(ペイト)、
ビタミンD剤を注入する PCIT 、PMIT があります。
副甲状腺にエタノールを注入する PEIT(ペイト)、
ビタミンD剤を注入する PCIT 、PMIT があります。
いままで副甲状腺機能亢進症への内科治療薬はビタミンD剤でした。
しかしカルシウム、リンを上昇させる副作用があります。
そのためPTHを抑えたくてもカルシウム、リンの高い人には使用できませんでした。
Ca受容体作動薬について
Ca受容体作働薬(カルシミメティクス)、シナカルセト(レグパラ)は
PTHを抑制し、カルシウム、リンも低下させます。
PTHを抑制し、カルシウム、リンも低下させます。
ビタミンD剤やシナカルセトは副甲状腺機能を抑制し、
それぞれ副甲状腺表面のビタミンD受容体、
それぞれ副甲状腺表面のビタミンD受容体、
カルシウム受容体を増加させる作用があります。
D剤はカルシウム、リンを上昇させる副作用がありますが、
カルシミメティクスはカルシウムではないけれどもD剤はカルシウム、リンを上昇させる副作用がありますが、
カルシウムのふりをして副甲状腺のカルシウム受容体に結合し、
カルシウムが十分に足りていると勘違いさせる作用機序です。
D剤とカルシミメティクスを併用することで相乗効果を発揮し、
互いの副作用を打ち消しあい、副甲状腺を退縮させる可能性があるといわれています。
同様の作用機序でかつ半減期の長い静注用(パーサビブ)が発売されたことで、
胃腸障害などの副作用もほとんどなくなり、
飲み忘れなどもなくなったため治療効果もさらに上がってきています。
胃腸障害などの副作用もほとんどなくなり、
飲み忘れなどもなくなったため治療効果もさらに上がってきています。
前述のように血清カルシウム濃度は8.4~10.0mg/dl 、
リン濃度は3.5~6.0mg/dlの範囲内でも低めに、
PTHの管理よりも優先して維持しなければなりません。
PTHの管理よりも優先して維持しなければなりません。
カルシウムとリンのコントロールができていても
PTH管理のためにD剤の治療を開始すると PTH低下の過程で
副作用であるカルシウム、リンの上昇がおこるため
副作用であるカルシウム、リンの上昇がおこるため
D剤を減量せざるを得ず、 PTHを十分に抑制することができませんでした。
一方、シナカルセトの投与では副作用として低カルシウムが起こるため
PTHの管理目標とする値までシナカルセトを使用することができない例がでてきます。
D剤とシナカルセトの併用によってカルシウム、リンの管理目標達成率は
シナカルセト発売以前に比べ、倍増したという研究結果があります。
また、シナカルセト発売後、副甲状腺インターベンションは激減しました。
外科的治療(インターベンション)には反回神経麻痺、声ガレなどの副作用がありました。
以前は副甲状腺機能機能亢進症により高回転骨を呈する患者さんが大半を占めていました。
高 PTHによる高回転骨は骨をもろくし、繊維性骨炎を起こし
骨から溶け出したカルシウムは組織や血管に付着し異所性石灰化の原因となり
透析患者の死因の上位を占める血管疾患を招いていたのです。
しかし治療の進歩とともに現在では骨回転が過剰に抑制された
低回転骨、無形成骨の方が多く、増加しているとの調査結果が出ています。
PTHが低下しすぎている状態では骨吸収、骨形成ともに低下し、
行き場を失ったカルシウム、リンが組織や血管に付着し
これもまた、異所性石灰化の原因となるのです。
Intact PTH の管理目標値は 60~180 pg/ml です。健常者では 10~65 pg/ml です。
なぜ透析患者ではPTHの管理目標値が高いのでしょうか。
なぜ透析患者ではPTHの管理目標値が高いのでしょうか。
透析患者の骨はPTHに対する抵抗性をもつのです。
その原因として、
超生理的濃度のビタミンDの連用、慢性的な炎症の持続が挙げられます。
超生理的濃度のビタミンDの連用、慢性的な炎症の持続が挙げられます。
もともと骨回転の低下した高齢者、糖尿病患者の増加、
7-84PTH の蓄積も低回転骨、無形成骨増加の原因です。
PTHは84個のアミノ酸の出来ており、1-84 PTHと表記されます。
血中にはさまざまなPTHの断片(フラグメント)が存在し、
腎不全患者では7-84 PTHが蓄積し、7-84 PTHには1-84 PTHに反する作用、
骨吸収と骨形成を抑制する作用があることがわかりました。
当初、Intact(損なわれていないの意) PTHは
1-84 PTH だけを測定していると思われていましたが
1-84 PTH も7-84 PTHも測定していることがわかりました。
Whole PTH の測定では1-84 PTHだけを測定することができます。
Intact PTH とWhole PTH には強い相関があり、
Intact PTH の約6割の値がWhole PTH の値となるため
Intact PTH の約6割の値がWhole PTH の値となるため
Intact x 0.6でもWholeでも どちらで評価しても差はないようですが
Whole PTH/Intact PTH 比は0.3 ~0.8とばらつきがあり、
骨の PTH抵抗性も人それぞれなのです。
骨の PTH抵抗性も人それぞれなのです。
そのためIntact PTHが高い場合でも1-84 PTHはそれほど上昇していないことがあり
PTH抑制治療前でも繊維性骨炎ではなく無形成骨の状態であることもあるのです。
このような状態でビタミンD治療が行われると
容易に高カルシウム血症、血管石灰化をきたします。
容易に高カルシウム血症、血管石灰化をきたします。
骨はカルシウムの貯蔵器官であり調節器官でもあります。
無形成骨ではその調節機能が落ちているからです。
またビタミンDは直接骨に作用し骨形成を抑制する作用があるため
Intact PTH は低下しないまま、無形成骨へと転じてしまう可能性もあります。
現在、Intact PTHではなくWhole PTH を測定する病院が増えています。
しかし PTHの過剰抑制のリスクを減らすことはできても
Whole もIntact も単独で使用できる指標ではありません。
血清カルシウム値やほかの骨代謝マーカー、アルカリフォスファターゼや
オステオカルシンのチェックが必要です。
PTHが高値であっても骨代謝マーカーが高値でなければ
骨回転が亢進してるとはいえず、治療の対象とはならないのです。
かつて透析患者の大半を占めていた繊維性骨炎、増加する無形成骨、
これらは腎性骨異栄養症(ROD)と総称されていました。しかしこれらは
透析患者の死因の上位を占める血管疾患とも関連しています。
そのため現在では骨だけの問題ではなく全身性疾患であるとして
CKDに伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)という概念が用いられるようになっています。