リン

リンリンの管理目標値は 3.5~6.0mg/dl です。
透析前リン濃度 4~5mg/dl の患者さん一年間の死亡率を1としたとき
6~7mg/dlでは1.15、 7~8mg/dlでは1.41、8~9mg/dlでは1.59と
リンが上昇するにつれ死亡リスクは上昇していきます。

味気ない食事をするなら早死にしてもいいとは思っても
このようなグラフをみると最低でもリン値は3以上7以下にキープしたいところです。
リン濃度 3.0mg/dl 以下では死亡率が高くなっています。
これは栄養状態の悪い人は死亡率が高いことを意味します。

健常者の場合、一日に摂取するリンは 1200mg です。
3分の1が便として体外に排出され、3分の2が尿中に排出されます。
腎不全である場合、尿が出ないので 1200mg の3分の2、
800mg が血液中に残ってしまいます。

一日に800mg 体内に留まってしまう。
しかし1回 の透析で取り除けるのは800mg 程です。
そのため食事療法と薬物療法が必要となるのです。
リンはほとんどの食品に含まれ、蛋白質にくっついています。
蛋白質をひかえめに、一日に摂取するリンは 800mg 以下に制限します.

リンの蓄積はなぜこれほど患者の死亡リスクを上昇させるのでしょうか。
理由は主に2つあります。
ひとつはリンは副甲状腺に悪影響を与えます。
もうひとつは血管石灰化作用です。

副甲状腺(Parathyroid Glands)は上皮小体とも呼ばれ、
副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌しています。
PTHは骨を溶かし血液中のカルシウム濃度を
上昇させる作用をもちます。

リン(P)の蓄積は副甲状腺の細胞を増殖させ、PTHの分泌を促進させます。
PTHの分泌により血液中のカルシウム濃度が上昇すると
通常、副甲状腺のカルシウム受容体はそれを感知し、PTHの分泌にブレーキをかけます。

リンの蓄積は副甲状腺の細胞を増殖させ、
副甲状腺のカルシウム受容体を減少させます。
のため副甲状腺機能にブレーキをかけるカルシウムを副甲状腺は感知できなくなり、
骨を溶かすPTHの分泌増加に歯止めがかからない状態となるのです。

高リン血症が副甲状腺の量的変化、質的変化を起こし、
ますます副甲状腺機能を亢進させる。
これが副甲状腺機能亢進症の様態です。


リンの副甲状腺への悪影響を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。
そのためには十分な透析、リン吸着剤の服用、食事制限が必要です

リン吸着剤

炭酸カルシウムは最もよく使われるリン吸着薬ですが
カルシウム負荷が血管石灰化の原因になることから
一日当たり3gが限度と勧告されています。

カルシウムを含まないリン吸着薬には塩酸セベラマー
(レナジェル、フォスブロック)があります。
塩酸セベラマーは服薬量が多く1錠あたり20ccの水分を吸って膨らむことから
便秘や膨満感、腸の穿孔など危険な副作用が出やすく、
消化器症状は半数の人に現れる服薬コンプライアンスの低い薬です。
下剤などと併用し少量からゆっくり慣らして服用します。
またこの薬はクロールを含んでおり、アシドーシスに傾きます。

リン吸着薬で炭酸ランタン(ホスレノール)という薬は
噛み砕くチュアブルタイプで吐き気などの副作用はあるものの
食直後に飲んだり、服用していくとともに軽くなるといわれています。
この薬はとても強いリン吸着能がありますが、
薬に含まれる金属、ランタンの蓄積が起こることがあり、
長期服用の懸念があるとされます。
金属ですのでレントゲンでは錠剤が白くうつります。

ビキサロマー(キックリン)は塩酸セベラマー同様、ポリマー系ですが
膨潤の程度が低く、消化器症状がセベラマ50%に比べ、
服用者の4割までに改善されています。
セベラマーにあるアシドーシス作用がなく、
炭酸ランタンにある蓄積する金属が使われていないのですが
販売されているリン吸着剤の中ではもっとも効果が低いようです。

クエン酸第二鉄水和物(リオナ)は鉄とクエン酸を含んでいます。
鉄は透析患者さんは不足しますし、クエン酸はアシドーシスの補正を行うことから
一石三鳥な効果をもっています。
フェリチンが下がると鉄を大量補給、Hbがすぐにあがり造血剤休薬、
鉄も上がって鉄剤中止、Hbもすぐ落ちるというHbサイクリング、
ヘモグロビンの変動幅がでかいほど、心血管イベントが起こりやすいことが知られており、
経口で鉄を摂取できるリン吸着剤はHbサイクリングを小さくすることが
期待されますがこの薬の最大の欠点はウンコが黒くなることです。
常にウンコが黒ければ、消化管出血に気付き難くなってしまいます。

これらは体の中で食べ物からリンを吸着する薬です。
食べた食べ物と薬が腸で混じり合わなければ効果を発揮しません。
服用のタイミングは重要です。食後30分後にリン吸着剤を服用していた患者さんが
炭カルをふりかけのようにご飯にかけて食べたところ、
なかなか下がらなかったリンが下がり、薬を減らすことができたということがありました。

高リン血症は単に死亡リスクを上げるだけではなく、
透析患者の生活の質を悪化させる最大の要因です。
リンの悪影響、二つ目は血管石灰化作用です。
透析患者の死因、上位5位は心不全、感染症、脳血管疾患、癌、心筋梗塞。
感染症と癌を除けば血管疾患によって亡くなっているのです。

背骨が変形したり関節痛、骨痛、激痛を伴う急性の異所性石灰化。
脳卒中、心筋梗塞などの血管疾患、心臓の弁置換術などおおがかりな手術をする人の
ほとんどがリンが高めです。
長期に透析をうけていても驚くほど元気な人はたいていが趣味であるように
低リン食の探求をしています。

無機リンには生理作用とは直接的な関係がないため、放置されがちです。
(高リンであると掻痒感やイライラなどの症状がでますが)
リン吸着剤の服用を拒否し、リン制限も行わない患者さんがいましたが
異所性石灰化を起こしていました。
発症は急激で強い痛みと腫れ、炎症を起こします。
リン制限をまもらずこのような症状を繰り返す患者さんもいますが非常に危険です。

食事療法


たべてはいけないものはありません。
乳製品、ナッツ、加工食品、インスタント食品など
高リンのものをたべるなら週終わりの透析後に食べるよりも
透析直前の食事のほうが影響は少ないでしょう。いろいろ工夫できます。

たとえばご飯はそれ自体、リンの高い食品ではありませんが
100gあたり100㎎程のリンが含まれており、三食食べると
総量、合計のリン摂取量はどうしても多くなってしまいます。
現在では味も改善された低リン米が販売されているので試す価値はあります。
健康食品に抵抗があるのなら通常のコメと比べ、
無洗米のリン含有量は低いのでまず、無洗米に変えるべきです。
無洗米ならどこでも手に入りますし価格も同等、味も変わりません。
コメのとぎ汁をださないので環境にもよいといわれています。

タンパク質は大事なので肉が食べたいのであれば
リンの高い蛋白は制限するようにします。
ハムやソーセージ等の屑肉を保存料と添加物で固めたものは
リンが高いため基本止めます。クリーム、牛乳も高いです。
ピーナッツ、クルミ、カシューナッツ、卵黄、チーズも注意。

リンの低い蛋白として鮭、大豆、豆腐、ツナ、
さらに低いものに豚しゃぶや鳥モモ、胸肉、タラ、牛肉、ラム肉。
特に低いものは卵白です。卵黄だけ捨てるのは残念ですが
スープや炒め物に工夫して使うといいかもしれません。
リン/蛋白比の低いもの、リンの低い蛋白質を選びます。

食事によって摂取された蛋白質はアミノ酸に分解され血液中に入り全身に運ばれ
身体を構成する蛋白質になります。(蛋白合成)。
そして蛋白質はまたアミノ酸に分解され、アンモニアに変換され、
肝臓で無毒化、最終代謝産物であるBUNになり排泄されます。(蛋白異化)。

PCR(蛋白異化率)は蛋白質が異化される速度を示しており、
急激な「体重増加」や「やせ」がない限り蛋白異化速度は蛋白合成速度と等しく、
蛋白合成速度は蛋白摂取量に等しいため、PCRは栄養状態を表す指標として利用されます。
コロナの検査ではありません。

PCRの単位は「g/kg/日」。一日の体重あたりの蛋白質摂取量です。
透析を受けている人のPCRの目標値は0.9~1.2 g/kg/日です。
日本人の平均的な蛋白質摂取量は1.2~1.6g/kg/日といわれます。
また、ステージG3b以降、蛋白質制限を行っている透析導入前の
腎不全患者さんの食事は0.6~0.8g/kg/日が推奨されています。

透析1回でアミノ酸は7g、蛋白質40g、カロリーは200kcal失われます。
一年間で失うカロリーは28800kcalとなり、
フルマラソン12回で消費するカロリーに相当します。

透析による蛋白ロスがある上に透析患者は慢性的に炎症状態にあり、
尿毒症物質の影響もあって蛋白が体から失われやすい蛋白異化亢進状態であるため、
イベントがあるとやせやすく、それが抵抗力の低下、生命予後の低下につながります。

BMIの低下(やせること)は生存率を急激に低下させることが知られています。
PCRと生存率の関係を表したグラフでは
十分な蛋白質を摂取していなければ死亡率が高まることがわかります。

よく体重増加を注意されると
ご飯を少なくすることで対応しようとする患者さんがいますが、
ご飯を減らすと塩分もリンも多いおかずの量が増えるので
かえって体重増加は多くなります。

体重増加を注意され過ぎて食事がめんどくさくなり
お粥しか食べないと宣言した患者さんもいましたが
水分の多いお粥はさらに体重を増やします。

ごはんは塩分もカリウムもリンも少なく透析で喪失するカロリーを補えます。
透析となったらリン、カリウム、塩分の多い食品を控え、ご飯は少し多め。
というのが透析を受ける人の食事療法の基本です。

透析施設のなかでオーバーナイト透析を行う施設が増えてきています。
仕事帰り、透析を夜から始め睡眠中に朝まで行い、そのまま仕事に行くというものです。
長時間透析ではリン制限、吸着薬の服用は必要ありません。
オーバーナイト透析を行う施設に見学に行き、話を聞いたところ、
低リン血症を予防するため患者さんには透析前にピザを食べてもらうそうです。

長時間透析ではリン制限が不要となるのです。